しながわ水族館の
日常から生まれた、
4つのストーリー。

この場所は30年以上にわたり、
多くの人がいきものとふれあうことで生まれた、
さまざまな表情で溢れ続けています。
はしゃいだり、驚いたり、
怖がったり、見入ったり。
そんなしな水の日常の風景と、
お客さまやいきものと接する
スタッフへの取材をもとに描いたのが、
この「4つのストーリー 」です。
いきものに出会うことで、
これからも素敵な物語が
たくさん生まれますように。
しな水で、いきものたちと、
お待ちしています。

いきもの、そのものを、もっと。しながわ水族館

STORY01 迷子の少年と
ウミガメ

「おーい、翔太、走るなよー!パパから離れないで」
ママは赤ちゃんを産む準備でおばあちゃん家にいるから、
今日はパパとふたりでお出かけ。
「痛っ!……ころんじゃった」
「大丈夫?もうすぐお兄ちゃんになるんだから、我慢できるかな?」
そうだ、ママとも約束したんだ。
「 ……泣かないもん。あっちも行ってみたい!」

水槽がいっぱい。いろんな魚がいるなぁ。
「ねえ、パパ、この魚さぁ」あれ?……パパがいない!?
どこ行っちゃった?どうしよう。イヤだ、ひとり怖い。
約束したのに……涙が出てくる…… 。

「うわぁ、なにここ、すごい」
海のトンネル?大きいなぁ。遠くまで魚がいっぱい。
わぁ、きれいな模様。みんな、ゆらゆら楽しそう!
あ、大きなカメが近づいてきた。なんか、笑ってるみたい。
『大丈夫、みんなキミの友達だよ。ひとりじゃないからね』
え、カメさんしゃべった!?

「翔太!ここにいたのか」……あっ、パパ!
「ひとりにしてごめんな、大丈夫か?」
「うん、泣かなかった」
抱っこしてもらって、さっきのカメさんがもっと近い。
「パパ、今度は赤ちゃんと一緒に来たい。友達を紹介するんだ!」

トンネル水槽

約50種類の魚たちが棲むトンネル水槽は、しながわ水族館のシンボルの一つです。光のゆらめきが時間を忘れさせ、水中を散歩しているような気分を感じさせます。悠々と泳ぐウミガメと目が合うこともあり、ワクワクする生物たちとの出会いがあります。

STORY02 イルカたちの
エール

「さっきのカワウソ、かわいかったね!」
「う、うん」
……さっきから俺、ぎこちない返事ばかりだ。
ずっと好きだった結衣を、ついにデートに誘えたのに。
隣に座ってるとガチガチに緊張してしまう。
もっと盛り上げないと……。喉が渇く。自分が嫌になってきた。
あ、やっとイルカショーが始まった。

「すごい、もうあっちにいる!」イルカたちの迫力に、結衣が声をあげる。
「時速30キロで泳ぐんだ」
小さい頃から何度も聞いて、覚えてしまったショーの解説がつい口をついた。
「そんなに速いの!?よく知ってるね!」
「ここのショー好きなんだ。イルカが目の前にいて」
……あれ?なんか、自然に話せてる。
「ここからがすごいんだ、水しぶきに気をつけて!」
きた、ショーで一番の大ジャンプ。
『がんばれ』ってイルカに応援されてるみたいだ。

「つめたーい!!」ふたりの声がシンクロする。
顔を見合わせたとき、今日初めて、心から笑えた気がした。

「楽しかったねぇ。イルカのこと、もっと教えてよ!」
「う、うん」 ……あれ、またぎこちなかったかな。
こっそり買ったお揃いのイルカのキーホルダーを、ポケットの中で握りしめる。
もう一度、イルカの応援が必要みたいだ。

イルカショー(イルカ・アシカスタジアム)

しながわ水族館では、1991年の開業時から続くイルカショーを通して、30年以上経った今でも、お客様にイルカたちの能力や生態を伝え続けています。間近で見るからこそ感じられるイルカたちのダイナミックさは、言葉で言い表せない迫力です。

STORY03 夫婦喧嘩と
クラゲの個性

「いつまで支度してんの?もう10時過ぎたよー」
今朝も無神経な一言にイライラしてしまった。
夫は素直、というか、思ったことをすぐに口にする。
そのせいでこれまで何度、喧嘩になったことか。
今日だって……。せっかく水族館に来たのに気分が晴れない。
娘の葵は、我関せず。ひとり先へ行ってしまう。
4年生ともなれば、そんなもんか。

「ママー、パパー、このクラゲ、動き変じゃない?」
水槽を覗くと、1匹のクラゲがひっくり返ったり、
自由気ままに振る舞っている……ように見える。
そのせいで、隣のクラゲまでゆらゆらしていた。
「あっちがパパで、こっちがママみたい」
確かに。言われてみると本当にそう見える。
「俺、こんなに邪魔ばっかしてるかぁ?……してるかも、ごめん」
へえ、謝るなんてめずらしい!
ぼんやり眺めていると、どのクラゲも、それぞれに楽しそう。
『いろんな個性があるから面白いよね』って、クラゲに教えられた気がする。

「ペンギン見てくる!」
葵は妙にニヤニヤしながら、ひとりで行ってしまった。
そう言えば出会ったばかりの頃も、夫とここに来たことがあった。
あの頃は、この人の素直で裏表のない性格に惹かれてたんだっけ。
ひとまず今日は、クラゲの教えを大切にしてみよう。

クラゲたちの世界

「クラゲたちの世界」コーナーには様々な種類のクラゲを展示しています。水流のままに漂うクラゲを眺めていると、慌ただしい日常を癒してくれるように感じる、時間を忘れて過ごしたくなる空間です。

STORY04 ありのままの
アザラシ

「わたし、成長できてるのかなぁ」
アザラシの飼育員になってもうすぐ1年。
いきものは好きだし、仕事にやりがいも感じてる。
でもショーは、いつも間違えないことに精一杯。
この子たちの魅力を、ちゃんとお客さんに届けられているだろうか。
先輩たちと比べると、自信が持てない……。

「どうしたら、もっと上手くできるかな?」
アザラシに相談してどうするんだ、わたし。
それにしても気持ちよさそうに泳いでるなぁ。
この、ありのままの姿が、なんとも愛らしい。
『上手くやろうとしないで、キミらしくやってみたら?』
ふと、そんな返事が頭に浮かんできた。
そうか、水槽を覗くお客さんたちも、
ありのままの動きや表情を楽しんでいるよね。
アザラシを大好きな気持ちを素直に出して、自分らしく伝えてみよう。

「このあとのドヤ顔、注目してください!」
「拍手が大きいほど燃えるんです、この子」
みんなが笑ってくれて、わたしも自然と笑顔になれた。
「今日のショー、よかったね!いい雰囲気だった」先輩の言葉にホッとする。
でも、まだこれからだ。アザラシを大好きなこの気持ち、まだまだ伝えきれていない。
もっとお客さんに知ってもらえるように、明日のショーもがんばろう。

アザラシ館

アザラシたちが水中を気持ちよさそうに、360度自在に泳ぐ様子が見渡せるアザラシ専用の水槽です。アクリルチューブの中から水中を見ると、どこからともなくアザラシが現れます。ぽってりとしたアザラシが迫ってくる様子に、とがった心がゆるまるような空間です。